2015年3月22日日曜日

ホテル湯王温泉 ⭐️⭐️⭐️

◉山梨県甲府市住吉〔単純泉〕


ホテルのフロントの目前に銭湯をまるごと移設してきたようなつくりは、松竹錠の下駄箱を挟んで左に男湯、右に女湯の暖簾が垂れている。一石二鳥のこの空間はまさに甲府出張の温泉好きなわたしのために生き残ってくれていた昭和の温泉ホテルと言うことができる非常に合理的な施設である。さらに驚いたことにホテルの外壁の一部であるガラスには様々な催しを記す「張り紙」があり「超初心者向けパソコン教室開催中」等、宿泊以外にも温泉銭湯の集客力から地元住民との横のつながりは強そうだ。
⚫︎立派なホテル正面口の奥には新館もあり決して規模は小さくない


フロントでは旦那が問い合わせ客の電話対応中。そこで先ず浴室入口周辺をチェック。その後、辺りを見渡すと壁に埋め込まれたショーケースのような展示スペースに甲冑やら何やら無造作に並べられている。ロビーには柱時計。。。これは正真正銘の正統派、昭和の田舎ホテルである。わたしの世代には懐かしいやら恥ずかしいやら、電灯もうす暗く、まるで実家にいるような感覚で非常に落ち着くのはわたしだけではないだろう。

チェックインは前金制で税込3,600円を支払う。甲府から身延線で「湯王温泉」がある甲斐住吉までの交通費190円×2を含めても4,000円とユースホステルなみの価格である。しかも部屋はもちろん個室でベッドは清潔なシーツでしっかりとベッドメイキングされていて、TV、WI-Fi、冷蔵庫、便器のあるユニットバス、浴衣そしてなんと「ちゃんちゃんこ」まで用意されている。これには平伏した。少年時代に連れていかれた宿で着た覚えのある「ちゃんちゃんこ」にそっくりだ。色柄、質感までまったく同じもののように思えてならない。およそ40年もののビンテージ。泣ける。
⚫︎昭和時代に流行った色のカーペットに織物調の草色ちゃんちゃんこ


さてお目当ての温泉は午前6時から午後10時まで。時間を有効に楽しむことを考えると夜間は外出して楽しみの温泉はチェックアウト前の朝風呂とする勇気ある決断。外出といっても向かう先は近隣の温泉銭湯である。足はホテルの貸し自転車。貸し自転車が準備されているホテルは本当に有難い。出張先のホテルの決め手は金額はもちろん貸し自転車の有無がとてもとても重要な要素だ。

チェックインの時に朝食をホテルに依頼するか少し迷った。金額は700円となんとも判断に迷う。夕飯にありつけない場合も想定すると朝食はしっかりと取りたい反面、旅先で満足する食事にありつけない場合は断食やパンをかじる程度で済ますことが多い自分を知っているからである。今回、ホテル側には申し訳ないが満足できる朝食ではなさそうなのであっさりとパスすることとした。

⚫︎旅先で得意の自分撮りが出るときは上機嫌の証し


翌早朝、近くの住吉神社まで散歩に向かう。フロント目前の浴場下駄箱前には男性の靴が一足、朝湯を楽しんでいることを知らせてくれる。ホテル滞在客は多く見積もっても10人程度だろう。散歩から帰れば浴場にはもう誰もいない貸切風呂を楽しめるに違いないとたかをくくって散歩に出かける。これから出逢う新しい温泉に期待して散歩から帰り、すぐさま浴場へ向かう。ところが下駄箱前に着くと靴はもう一足増えていた。先に入っている人は早朝から長湯な男だ。と余計なお世話と思いながらどんな面か見に浴場に入ると驚いた。なんと浴場には7人位の人が湯を楽しんでいる。靴は皆、行儀よく下駄箱におさめていたのだ。しかも男たちはほとんど早朝風呂を目当てに自宅からやってきた先輩群オヤジ達である。いっぱいやられた。これが地元に根ざした素晴らしい複合施設「湯王温泉」の朝である。

湯は無臭で柔らかな鉄錆味がする淡い黄褐色で飲用可の印であるカップが湯出口の龍の頭に置かれている。水栓から注がれる湯も温泉の印で金具が褐色に染まっている。ぬるぬる湯、ぬる湯、標準と3つの浴槽に加えて幼児用プールのように浅い浴槽が1つ打たせ湯とともにある。設備は全体的に古さを隠せない。いや隠そうともしていない堂々たる姿で年輪を重ね続けている。豊富な湯量は自噴で毎分400リットル、30秒でドラム缶1本が満タンになると誇らしげに書かれた看板がエレベーターと浴場内にある。泉質のインパクトは無いが、日常の湯治風呂として周辺住民への効用は絶大なものがあるに違いない。一見くたびれたあやしいホテルに見える「湯王温泉」だが、ホテルの枠を越えたある意味最先端多様なサービスを提供する素晴らしい複合施設。これからも地道な継続した活躍を期待したい。

⚫︎なんとユニットバスの蛇口から出るお湯は正真正銘の温泉


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